カスタード・クリーム。
あまりにも有名なクリームですね。
フランス語ではCrème Pâtissière(クレーム・パティシエール)。
直訳すると“ケーキ職人のクリーム”です。
ケーキ屋のクリームというだけあって、
基本中の基本です。
これによりそのケーキ屋のレベルがわかるとさえ言われるくらいです。
でも作り方は至ってシンプル。
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1)牛乳とバニラを鍋で沸かす。
2)卵黄と砂糖をすり混ぜる。
3)2に小麦粉をさっくり合わせる。
4)沸いた牛乳を3に加え、良く混ぜたら鍋に戻す。
5)火にかけて“こし”がなくなるまで木べらで焚き上げる。
6)バットに移しラップをして冷却する。
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ね、シンプルでしょ?
でもこの作り方が簡単な為に、
かえって失敗する職人さんを多く見てきました。
なぜこんなにシンプルなのに失敗するのか?
それは1~6のそれぞれの工程の意味を理解していない若い職人さんが多いからです。
彼らのノートをみても、上記の「作り方」が書いてあるだけ。
「なんで卵黄と砂糖をすり混ぜるの?」と聞くと、
「はい、そうしろと言われたもんで」と返ってきます。
「洋菓子の作り方」をとても平たい言い方で表現すると、
「素材をどうやって合わせるか」に尽きます。
ですが「(素材は)どんな性質」「どんな状態」「どんな環境」によって
同じ食材でも合わせ方が変わってきます。
これを理解して作れるのが“パティシエ”、
そうでないのが“アマチュア”です。
特に「素材の性質」を解っていないと、
失敗したときに“なぜ失敗したか?”がわかりません。
「えーっ?書いてある通りに作ったのに。このレシピ間違ってる!」
なんてこと言いだします。
逆に理解していると失敗の原因がわかるだけでなく、
より的確な合わせ方を見つけられたり、
またより良い状態を作り出すことが出来ます。
更には、自分でレシピも作ることが出来ますし、
レシピを見ただけで、最良の作り方を導き出すことができます。
「性質」を理解するまでは勉強が必要です。
「状態」「環境」を理解するまでは経験が必要です。
先ほど書いたカスタード・クリームの作り方も、
そう言ったことを踏まえてノートをつけるならば
こんな感じに書くべきです。
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- 牛乳とバニラを鍋で沸かす。
バニラはさやからこそぎ取るようにして牛乳にくわえ、香りが出やすくするように泡だて器でよく拡散させてから火にかける。また牛乳は完全に沸かしてしまうと褐色化という変質を起こすため、沸く直前で火を止めるようにする。褐色化ギリギリまで温度を上げるのはバニラの香りをより引き出すためと、最終的に焚き上げる時間をより短縮する為である。よく「砂糖の一部を牛乳に加えると膜がはりにくくなり、沸点も上がる」と言われるが大した効果はなく、沸点もそこまで上げてはならないので砂糖を入れる必要性はない。
- 卵黄と砂糖をすり混ぜる。
まず砂糖を加えたらすぐに混ぜなければならない。卵黄の水分を砂糖が吸ってしまうと擦り混ぜても溶けずに黄色いダマとなって残ってしまうからである。そして白っぽくなるまで擦り混ぜる。白っぽくなるまでというのは“空気を含ませる”ということだが、“泡立てる”とは違う。空気を入れ過ぎると牛乳と合わせた際に気泡が表面を覆い焚きにくくなるのと、出来上がったクリームがホコホコの状態になってしまうからである。適度な空気を含ませる状態にすることで卵黄の粒子が細かくなり、牛乳に合わせた際にほどよく全体に卵黄が拡散される。また卵黄は通常70℃で完全凝固してしまうが、砂糖を加えることで熱に強くなる性質を持っているため高温の牛乳を加えても即座に火が通らず温度を保ったまま均等に混ざった状態を作ることが出来る。
- 2に小麦粉をさっくり合わせる。
小麦粉にはグルテンという“ゴム質”のたんぱく質と、グリアジンという“スライム質”のたんぱく質が含まれ、いずれも水分と結合することで形成され始め、力を加えることでそれが網目のような構造を作り“こし”という状態を作り上げる。その為2に合わせる時は出来るだけ力を加えずに混ぜ、グルテンの網目が形成されない“こし”のない状態にすることで、次の牛乳と合わせやすくする。ただこれは小麦粉に関することであって、グルテンやグリアジンを含まないコーンスターチを使用する場合はその限りではない。
- わいた牛乳を3に加え、良く混ぜたら鍋に戻す。
正確には前述の通り“沸く直前”を加える。3に加えてから鍋に戻すまでの時間は短いほどよい。ここでは“いかに温度を下げないか”が最も重要。焚き上げる時間を短くすることでゴム質のグルテンを引き出すためだが、時間がかかればかかるほどネバネバのスライム質のグリアジンが多く引き出され“キレのあるこし”のあるクリームが出来なくなってしまうからである。鍋に戻す時に網で漉すと粉のダマやカラザ(卵黄の両端に付いている白いモノ)が取れるが、クリームが冷えてから裏漉しする場合は、敢えてここで漉す必要はない。またコーンスターチを使ったカスタード・クリームは熱い牛乳を加えた時点で火が通り始めて濃度が出てくるため、いずれにしてもここで漉すことは容易ではない。「カラザはえぐ味が出る」なんてことを言う人がいるが、正直あってもなくても味に全く差はない。最終的に口に残ることを防げばよい。
- 火にかけて腰がなくなるまで木べらで焚き上げる。
強火で鍋底をこするように、且つ全体を常に均一にするよう火入れする。4で説明した通り“より短時間で焚き上げる”ことが重要。でんぷん質は火が通ると一旦“こし”がなくなるので、そうなった状態をしばらく保った頃を目安に火から下ろす。泡だて器ではなく木べらを使うのは鍋の金気がクリームに移るのを防ぐためと、先が丸い泡だて器は鍋の角のクリームをかき取れないためである。
- バットに移し冷却する。
焚き上がったカスタード・クリームは消毒したバットに移したら平らに均し、表面にラップをかけるかバターを塗るかして乾燥を防ぎ、より短い時間で4℃まで冷却する。この4℃まで下げる時間が短いほど雑菌の繁殖を抑えられる。温度が下がったら消毒した裏漉し器で漉して冷蔵保存する。毎日焚くのが望ましいが、以上の工程をしっかり踏んでいれば3日は衛生的に保管することができる。もちろんこの保管期間に消毒した機器を使わなかったり、室温に戻りかけたりしたものは当然劣化するので注意する。また冷凍保存するとクリームの“こし”がなくなってダレた状態になってしまうため決して冷凍しないようにする。
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と、ブログ形式では長くなりすぎるので、ほとんど改行なしで書きましたが、
たった6行の「作り方」がA4サイズ1ページ半になりました。
これだけそれぞれの工程に意味があるということです。
そしてこの“意味を理解すること”こそが基本というのです。
だからと言って全ての作り方にこのような長い文章を付けろとは言いません。
これはカスタード・クリームでの例ですが、
卵、砂糖、小麦粉、牛乳の「性質」さえ理解していれば、
他のどんなレシピにも応用できるからです。
「性質」をしっかり覚えた後は、
むしろ作り方を書く必要がなくなるでしょう。
だから僕のレシピ帳には、特殊なものを除いては作り方が一切書いてありません。
レシピを見れば、いつでも自然に作り方がイメージされるんです。
その代り、常に素材の性質の勉強は怠らないようにしています。
「作り方」で覚える人は1000種類のレシピを1000通りの作り方で覚えます。
でも「性質」で覚える人は1000種類のレシピを100通り(概算)の方法で覚えます。
だから夢天菓ではスタッフに教える時、
「作り方」ではなく「なぜこうするのか」を教えています。
そうすることで、短期間で色々なことが出来るようになるんです。
たかがカスタード・クリーム、されどカスタード・クリーム
これは一部にすぎませんが、
基本て、大事です。
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と、今日は本文で長くなってしまったので、
読んでくださっている方も疲れてしまったのでは?
でも、特注オーダーのご紹介は今週も休まず行かせていただきます!
もう少しですので、是非ご覧ください!
≪ ラブラドライト ≫
サンリオのジュエルペットのキャラです。
簡単そうに見えますが、クリームを塗るのに苦労しました。
特に耳の部分は難しかったですね。
≪ ふなっしー ≫
マジパン細工です。
何とかして立たせたかったので、
プラスティックチョコで芯を作ってからマジパンをかぶせました。
プラスティックチョコは常温でしっかり固まるのです。
新しい作り方の発見でした。
ふなっしー拡大!
≪ 似顔絵イラスト ≫
赤ちゃんの顔の似顔絵です。
失礼ですが、赤ちゃんの皆さんは大人よりも特徴がはっきりしません。
写真を凝視してから描くのですが、「似てる」と言われるまではドキドキです。
≪ キュア・ビューティー ≫
イラストのオーダーでは、
前回のプリキュア人気№2でした。
今も好きな子は多いようですね。
影なしですが、髪の毛の光彩と眼はしっかりと描かせていただきました。
真上から。。。
≪ キュア・ハート ≫
いつも思うのですが、
プリキュアは放送開始から絵がだんだん可愛くなってきますね。
おじさんの妄想でしょうか?
でもとっても可愛く描けたと思います。
こちらも真上から。。。
今週は以上です。
オーダーして下さった皆様、ありがとうございました。
またのご注文、お待ちしております。
本日は特に長文お読み頂き、ありがとうございました。